平均値の嘘 – 平均値が上がった!なんてあてにならない

2020年5月19日

この記事ではこんなことを書いています

私たちが普段よく使う平均値についての話題です。

平均値は多くの数を一つにまとめて分かりやすくできる便利なものですが、扱い方を間違うととんでもないことになってしまう危険性もあります。

ここでは、そんな平均値の危険性について、日本の景気の話を例にみていきましょう。

どの所得階層でも所得の平均値が上がったら素直に喜んでいいの?

長らく日本は不景気の影響を受け、経済は沈んでいますよね。

そんな中こんな情報がニュースから流れてきたとします。

今年の所得は100~500万円、500~1000万円、1000万円以上のどの所得帯でも、5年前と比べると所得の平均値は上がっています。

つまり、年収100~500万円、500~1000万円、1000万円以上の人たちの中でそれぞれ平均をとった値が5年前と比べると増加していたということです(下の図)。

このようなニュースを聞いて、純粋に「私たちの給料は増えている」と素直に喜んでいいのでしょうか?

聞いた感じは悪くなさそうです。「景気が上向きになってきた!」と判断してもよさそうに聞こえますね。

 

しかし、それは間違いです!

100~500万円、500~1000万円、1000万円以上のすべての所得階層で5年前と比べると所得の平均値は上がっていても、すべての人々の所得を平均すると逆に下がっていることもあるのです!

 

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なぜ所得が下がる?平均値の嘘を見つける

なぜでしょうか?どの所得階層でも平均値が上がっていれば、全体でも上がっているはずではなのでしょうか?

単純化して考えてみましょう。わかりやすくするため、日本の人口が5人しかいないとしましょう。

そして、5人の年収は次のようにしましょう。

 名前 年収
Aさん 2000万円
Bさん 1100万円
Cさん 600万円
Dさん 300万円
Eさん 150万円

わかりやすく上から年収が高い順に並べています。5人全員の平均年収は830万円です。

これらを1000万円以上、500~1000万円、100~500万円の3つの所得階層に分けましょう。すると、

階層 年収 階層の平均値
1000万円以上 2000万円(Aさん)、1100万円(Bさん) 1550万円
500~1000万円 600万円(Cさん) 600万円
100~500万円 300万円(Dさん)、150万円(Eさん) 225万円

となります。

AさんとBさんの二人が一番上の階層、真ん中の階層にはCさん一人、一番下の階層にはDさんとEさんがいます。

表の一番右には各階層での平均値を示しています。

 

では、ここから不景気に陥り、みんなの給料が20%減額されたと仮定しましょう。すると5人の年収は下の表のように変化します。

 名前 年収
Aさん 1600万円
Bさん 880万円
Cさん 480万円
Dさん 240万円
Eさん 120万円

5人すべての年収が一律に20%減額されているので、平均年収も当然20%減って、664万円です。経済不況がやってきましたね。

では、各階層別にも表にしてみましょう。

階層 年収 階層の平均値
1000万円以上 1600万円(Aさん) 1600万円
500~1000万円 880万円(Bさん) 880万円
100~500万円 480万円(Cさん)、240万円(Dさん)、120万円(Eさん) 280万円

一番上の階層にはAさん一人です。不況前はBさんも一番上の階層でしたが、1000万円をきってしまいBさんは真ん中の階層に落ちてしまいました。

真ん中の階層はBさん一人です。

一番下の階層は真ん中の階層から落ちてきたCさんと、元々一番下の階層だったDさん、Eさんの三人です。

では、表の一番右に示している各階層の平均値に注目してみましょう。すべての階層で前よりも平均値が高くなっていることがわかります。

  • (1000万円以上)1550万円 → 1600万円
  • (500~1000万円)600万円 → 880万円
  • (100~500万円)225万円 → 280万円

ですが、全体の平均値が下がっていることはすでに見た通りです。したがって、

すべての年収階層の平均値が高くなっていても、全体の平均値は低くなっている可能性がある。すなわち、年収階層の平均値だけを見て景気を判断できない

ということになります。

ここでは、説明を簡単にするため5人だけの世界で考えましたが、何人になってもこの基本的な考え方は変わりません。

私たちの住む現実の世界でも同じことが起こっているのです。これが平均値の嘘です。

 

なぜこんなことが起きるのか?

なぜこんな現象が起きるのでしょうか?

それは、年収が下がることで、上の階層から落ちてきた人が下の階層の平均値を上げること、また下の階層に落ちていった人はその階層の平均値を上げることのおかげで、各階層の平均値が上がるからです。

例えば、上の例でBさんは始めは一番上の階層にいました。Bさんは一番上の階層内では年収は低い方だったのでその階層の平均値を下げていたのです。

しかし、不況となり真ん中の階層に落ちたことで、一番上の階層での平均値に影響しなくなりました。その結果、一番上の階層の平均値が上がったのです。

また、Bさんは落ちた真ん中の階層では年収が高い方です。そのため、Bさんが来たことで真ん中の階層の平均値も上がったのです。

 

経済にも数学の罠がたくさん隠されているのですね。

ニュースで流れた情報を直観的に判断するのではなく、その情報が示す本当の意味を自分で考えてみることが大切です。

 

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まとめ

  • 平均値は時として嘘をついていることがある
  • すべての階層の平均値が上がったからといって、全体の平均値も上がったとは限らない
  • 直感で物事を判断するのは危険である。その情報の示す意味を自分でよく考えてみることが大切である

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