面白い円周率の歴史 – 昔の人たちはこうやって3.14…を求めてた!

2020年5月20日

この記事はこんなことを書いてます

今や”3.14″でおなじみの円周率ですが、その歴史ははるか昔の古代バビロニア(紀元前2000年頃)にまで遡ります。4000年前、彼らはどのようにして円周率を求めたのでしょう。

そこから人類は文明を発展させるとともに、円周率をより正確に求める方法を考え出してきました。今では、小数点何億桁以上もの精度で円周率を求めることができます。

ここでは、数学史上、もっとも長い歴史を持つ”円周率”の歴史について紹介します。

数学史上もっとも長い歴史をもつ課題”円周率”

3.14でおなじみの円周率は”数学の歴史上もっとも長い歴史をもつ課題である”といってもよいでしょう。

円周率は円の周りの長さと円の直径を結ぶ数字です。小学校で始めに円周率(\(\pi\))が登場するのは、円周の長さ(\(L\))は直径(\(R\))を使って、

$$L = \pi \times R$$

と表せるということでしょう。この式を少し変形して、

$$\pi = \frac{L}{R}$$

と書くと、円周率とは”円周の長さと直径の比”であると言うこともできます。これが円周率の本当の意味です。

この値はどんな大きさの円についても成り立たっているという不思議なものです。

今では、私たちは当然のように円周率を3.14として使っていますが、人間はこの円周率(円周の長さと直径の比)を知るために、古くは古代バビロニア(紀元前200年頃)や中世ヨーロッパ、そして現代に至るまで努力を重ねてきました。

今では、スーパーコンピュータを使って何億以上の桁数まで計算されていますが、昔の人々はどのようにして円周率の値を知ったのでしょうか。

 

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円周率のはじまり

円の円周と直径の比(円周率)が一定であることを最初に発見した人や、この比を最初に計算しようとした人がだれであるかは分かっていませんが、円周率に興味を持ち、様々なことを調べ始めたのは約4000年前、古代バビロニアのバビロニア人とエジプト人でした。

古代バビロニア初期には、円の面積を求めるとき、半径\(r\)の二乗に3を掛けて求めていました。

$$\text{円の面積}=3 \times r^2$$

小学校で習ったように、円の面積の公式は、

$$\text{円の面積}=\pi \times r^2$$

ですので、古代の人々は円周率\(\pi\)を3として計算していたようです。

 

その後にもう少し正確な円周率の計測方法が生まれます。

円周率の値を知るために大きな円を地面に描き、ロープで円周と直径と測ることでその値を導いたのです。

$$\pi = \frac{\text{円周の長さ}}{\text{直径}} = \frac{L}{R}$$

の\(L\)と\(R\)を直接計っていたのですね。

彼らはこの方法を使って、円周率が3よりも少し大きな値であることを発見しました。その値は、

$$3 \frac{1}{8} = 3.125$$

でした。だいぶ正確な値に近づきましたね。当時の建造物を作る際に、この値は大いに活躍したようです。

 

紀元前1650年頃のエジプトでは”世界最古の紙”で知られるパピルスに、

円の直径からその長さの1/9を引いた数を計算し、その長さを一辺とした正方形の面積は、円の面積に等しい

という記述が残されています。つまり、下の図のように円の面積を計算していたということです。

この方法から、次の式が成り立つと考えることができます。

\begin{align}
\text{円の面積} & = \text{正方形の面積} \\
\pi_{\text{古代}} \left(\frac{R}{2}\right)^2 & = \left(\frac{8R}{9}\right)^2
\end{align}

古代に使われていた円周率(\(\pi_{\text{古代}}\))について解くと、

$$\pi_{\text{古代}} = 4 \times \left(\frac{8}{9}\right)^2 = 3.1605$$

となり、円周率の値として”3.1605″が使われいることが分かります。これが知られていたのが、今から約4000年前だということを考えれば、すごい精度で円周率を知っていたと感じますね。

残念なことに、このかなり正確な値は中国には伝わらなかったようです。なぜなら、これより数百年後の中国では、まだ円周率は3というアバウトな数を使っていたことが分かっているからです。

 

計算によって円周率を求める時代へ

\(\pi\)を計算によって求めた最初の人物は、みなさん一度は耳にしたことがあるであろうアルキメデス(紀元前287~212年)です。彼は古代ギリシャの数学者です。

彼は、

円を多角形で内側と外側から囲み、円の面積はその二つの多角形の面積の間になるはずである

というアイディアを使って円の面積を求めました。言葉だけではイメージしにくので、下の図を見てください。

面積を求めたい円が黒線で描いてあります。それを内側と外側から青色と赤色の六角形で囲むようにします。

このとき、円の面積は青色の六角形の面積よりも大きく、赤色の六角形の面積よりも小さいはずです。

青色の六角形の面積 < 円の面積 < 赤色の六角形の面積

六角形の面積は、これらを三角形の集合として見ることで計算できます。

これによって、円の面積の範囲が分かり、円周率も求めることができるというわけです。

ここでは、六角形を使って説明しましたが、もっと円に近い多角形(N角形のNが大きい)を使えば、正確な値に近づくことが分かります。

アルキメデスは正96角形を使いました。そうやって求めた円周率は、

\begin{align}
3\frac{10}{71} & < \pi < 3\frac{1}{7} \\
3.14084507 & < \pi < 3.142857142
\end{align}

でした。この範囲に円周率があると結論づけたのです。

これにより、私たちが使っている3.14と同じ小数点第2桁まで正確に分かるようになりました。ただし、小数点第3桁の値はあいまいなままです。3.141を使うのか、3.142を使うのかはまだこの式からは分かりません。

前にも述べたように、使用する多角形の角の数を増やせば増やすほど正確な円周率に近づきます。

時代が飛びますが、1600年にルドルフ・ファン・コーレンというドイツの数学者が、なんと正262角形を使って円周率を求めています。

262は約50京ですので、正50京角形を使って円周率の範囲を求めました。これはこの方法を使う限界の精度です。その結果、小数点第35桁まで正確な円周率を求めることができました。

円周率の発展に貢献したルドルフの墓石には、円と3.1415…が刻まれています(下の図)。

 

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中国の数学者Zu Chongzhi

アルキメデスが多角形を使った円周率の求め方を発案した後、円周率の値はアジアで発展しました。

紀元後429~500年に中国の数学者Zu Chongziが、

円周率は”355/113″とほぼ同じ値になる

ことを見つけたのです。355/113は、

$$\frac{355}{113} = 3.14159292$$

です。正確な円周率は3.141592654…なので、小数点第6桁まで合っています。

残念ながら、Zuがどのようにこの値を見つけたかは正確なことは分かっていません。

ただし、間違いなくこの時代でもっとも精度の良い円周率を知っていた人物であり、ヨーロッパの数学者はこの精度の円周率にたどり着くのは、これから約1000年後のことでした。

彼は球の体積を求める方法を考え出した人物としても有名です。

 

確率実験から円周率を導き出す

1600年代には変わった方法で円周率を求める方法が考え出されました。

それは、フランスの数学者・博物学者・植物学者のビュフォン氏が考えたビュフォンの実験です。

これは、

平行な線に線の間隔の半分の長さの針を投げ、投げた回数を線に交わった回数で割ると円周率が求まる

という方法でした。

$$\text{円周率} = \frac{\text{針を投げた回数}}{\text{針が線に交わった回数}}$$

この実験も繰り返せば繰り返すほど、正確な円周率の値に近づきます。この方法が発案されてから、何人かの忍耐強い人達によって実験が実行されました。下の表に年代順に記しています。

実験された年  名前  投げた回数 導いた円周率
1850 ウルフ 5000 3.1596
1855 スミス・ダベルディーン 3204 3.1553
1860 ドゥ・モルガン 600 3.137
1864 フォックス大尉 1030 3.1595
1901 ラッツァリーニ 3408 3.1415929
1925 レイナ 2520 3.1795

1850年に実験したウルフさんがもっとも投げた回数が多く、そのときに得た円周率の値は3.1596でした。

それからも実験は繰り返されますが、一番正確な円周率を導いたのは1901年に実験したラッツァリーニさんです。その結果は、3.1415929であり、小数点6桁までの精度で合っています。

ビュフォンの実験については、以下の記事で詳しく解説していますので興味のある人はご覧ください。

 

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現代の円周率

現在はパソコンの時代です。スーパーコンピュータや性能の高いコンピュータを使って円周率を計算させています。

「昔の人があんなに頑張って計算していた円周率をパソコンで力任せに解いているだけなんてつまらない」と思われるかもしれませんが、ただ力任せに解いているわけではありません。そこにも色々な創意工夫があるのです。

2018年2月時点の円周率の世界記録は、

小数点以下 22兆4591億5771万8361桁

です。「もうよくない?」って思ってしまいますよね。

 

まとめ

  • 円周率の歴史は長く、約4000年前の紀元前2000年に古代バビロニアで生まれた
  • バビロニア人とエジプト人は円周率を3として計算していた
  • その後、バピロニア人は実際の円の直径と円周を測り、\(\pi=3.125\)を使った
  • エジプトでは、円の面積を正方形に置き換えて計算しており、その時の円周率は3.1605だった
  • 紀元前200年頃に、アルキメデスが初めて計算によって円周率を求めた。それは、円を多角形で挟んで範囲を求める方法であり、3.14という精度まで向上した
  • 紀元後500年頃の中国ではさらに高精度な円周率が使われていた
  • 1600年には、アルキメデスの方法を極限まで精度を上げ、小数点以下35桁までの正確さを得た
  • 同時期に平行な線に針を投げて円周率を求めるという面白い方法がフランスのビュフォンによって考案された
  • 現在はスーパコンピュータを使って円周率が計算されており、世界記録は小数点以下 22兆4591億5771万8361桁の精度を誇る

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