ビュフォンの針実験 – 針を投げるだけで円周率が求まる

2020年5月25日

この記事ではこんなことを書いています

ビュフォンの針実験という面白い実験があります。

この実験では、針を直線的な平行線の上に投げるだけで、なんと円周率\(\pi\)が求まってしまうのです。

ここでは、ビュフォンの針実験のやり方となぜ円周率\(\pi\)が求まるのかまで、丁寧に解説しています。

最後は少し数学的な説明になります。

【動画解説(実際にビュフォンの針実験をやってみました)】
※記事の内容はもっと詳しい説明となっていますので、記事にも目を通してみてくださいね。

ビュフォンの針実験とは

数打てば当たるモンテカルロ法

ビュフォンの針実験はモンテカルロ法の一つです。

モンテカルロ法とは、一見ランダムなことを繰り返し行うことによって、一つのこと(一つの値)を導いていく数学的に確立された方法です。

 

今でこそ円の面積は公式が存在し、

$$\text{円の面積} = \pi r^2$$

を使って厳密に導くことができます。ここで、\(\pi\)は円周率、\(r\)は円の半径です。

 

しかし、円の面積を求める公式が存在しない時代に円の面積を求める必要があったとします。どうやって求めればよいでしょうか?

もちろん方法は一つではないですが、その一つの方法にモンテカルロ法があります。円の面積をモンテカルロ法で導いてみましょう。あなたが大昔の時代に生まれたと思って想像してみてください。

以下の記事には、円周率を公式に頼らず求める方法を紹介しています↓

 

さて、色々な方法が考えられると思いますが、初めにビュフォンの針と共通するモンテカルロ法を使った手法を紹介しましょう。

 

まず、紙に円を描きましょう。そして、その円が外接する(円の外側に接する)正方形も描きます。

この上にピンポン玉のようなボールを上から落とします。だたし、落としたボールは正方形の中のどこかで止まります。正方形の外枠に壁を作れば、必ず正方形の中でボールが止まるようにすることができるでしょう。

このとき、ボールが止まることができる場所は、

  • 円の中(上の図の水色の部分)
  • 円の外側の正方形とのスペース(オレンジ部分)

です。

 

円の中でボールが止まる確率はどのくらいでしょうか。

感覚的に正方形の面積のうちの円の面積になりそうな気がしますよね。つまり、下の式で表せるでしょう。

\begin{align}
\text{円の中で止まる確率} = \frac{円の面積}{正方形の面積} \tag{1}
\end{align}

円の公式が分からないと仮定しているので、いま分かるのは正方形の面積だけです。正方形の面積であれば一辺の長さがわかれば、

\begin{align}
\text{正方形の面積} = \text{一辺の長さ} \times \text{一辺の長さ}
\end{align}

で計算できます。

上の図で考えると、正方形の一辺の長さは1ですので、正方形の面積は\(1\)ですね。

 

また、(1)式の左辺の”ボールが円の中で止まる確率”はボールを落とした回数と円の中で止まる回数から求めることができます。

$$\text{円の中で止まる確率} = \frac{\text{円の中で止まる回数}}{\text{ボールを落とした回数}}$$

よって、式(1)は次のように書き直すことができます。

\begin{align}
\text{円の面積} & = \frac{\text{円の中で止まる回数}}{\text{ボールを落とした回数}} \times \text{正方形の面積} \\
\text{円の面積} & = \frac{\text{円の中で止まる回数}}{\text{ボールを落とした回数}} \times 1 \\
\text{円の面積} & = \frac{\text{円の中で止まる回数}}{\text{ボールを落とした回数}} \tag{2}
\end{align}

よって、ボールを落とす作業を何度も繰り返しカウントしていくことで、円の面積を求めることができるのです。ボール落とす回数が多ければ多いほど精度は上がります。

実際にボールを落としてみましょう。ここでは、パソコンのシミュレーションを使います。※個々で紹介した実験は、実際に段ボールなどで模型を作り実験しても面白いと思いますよ。

ボールが落ちた位置を円の内側に落ちたときは青色、外側に落ちたときは赤色で示しています。

100回ボールを落としたときは、円の内側に入った回数は79回でした。これを式(2)に当てはめてみると、

\begin{align}
\text{円の面積} = \frac{\text{79}}{\text{100}} = 0.79
\end{align}

となります。

 

一方、円の面積は公式から、本当の面積は、

\begin{align}
\text{正確な円の面積} = \pi \times 0.5^2 = 0.7853…
\end{align}

ですのでかなり良い精度で求めることができました。

 

さらにボールを落とす回数を10000回にしてみると、10000回中7877回が円の内側に入ったので、

\begin{align}
\text{円の面積} = \frac{\text{7877}}{\text{10000}} = 0.7877
\end{align}

です。やはり、ボールを落とす回数をあげると正確な値に近づいていくようですね。

これがモンテカルロ法を使った計算例の一つです。

 

このように、

「ランダムなことを繰り返し行うと、ある一つの定まった値が求められる」

これがモンテカルロ法です。

そして、これから説明するビュフォンの針実験もモンテカルロ法の一種です。

 

ビュフォンの針実験

本題のビュフォンの針実験です。

ビュフォンの針実験もこのようなモンテカルロ法を使います。

ビュフォンの針実験では、紙には円ではなく平行な線がいくつも描かれています。

そして、この上に落とすのはボールではなく針です。ただし、針の長さは平行な線の間隔の半分であり、針の太さはないとします。

 

このような設定で針を落とし続けていき、針が線に触れた回数をカウントしていきます。

そうして、

$$S=\frac{\text{針が線に触れた回数}}{\text{針を投げた回数}}$$

を求めていきます。

これが、ビュフォンの針実験です。

 

前に見た正方形と円にボールを落とすモンテカルロ実験では、円の面積を求めていることが明らかでした。

では、今回のモンテカルロ実験(ビュフォンの針実験)で出てくる値(\(S\))は何を表しているのでしょうか?

 

それは…なんと、出てくる値\(S\)の逆数が\(\pi\)(円周率、3.141592…)となるのです。

$$\frac{1}{S}=\pi$$

そうです!

ビュフォンの針実験は、モンテカルロ法で円周率を得るための実験

なのです。

 

不思議だと思いませんか?円周率は円と深く関係している数字です。

しかし、実験に使っているのは、平行な直線とまっすぐな針だけです。どこにも円の要素がありません。

なぜ、直線の要素しか使わない実験で、円に関係する円周率が導かれるのでしょうか。その答えは後ほど説明します。

 

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ビュフォンの針実験をやってみる

本来、モンテカルロ実験は膨大な数の実験を繰り返さないといけないため、コンピュータを使って自動でランダムな計算をさせますが、実際に手動でビュフォンの針実験をやってみるのも面白いかもしれません。

平行な線は、ノートの線を使いましょう。大学ノートには、横線が入っていますよね。これを針を投げる紙としましょう。

後は針ですが、シャープペンシルの芯を平行線の半分に折って使うとよいでしょう。ただし、平行な線の半分に正確に折るのはなかなか難しいです。

投げた回数と針が線に触れた回数を数え、下の式にいれて計算しましょう。

$$\frac{\text{針を投げた回数}}{\text{針が線に触れた回数}}$$

投げる回数が増えるにつれ、徐々に円周率(3.141592…)に近づいていくはずですよ。

 

ビュフォンの針実験は、フランスのビュフォンさんが1700年代に考え出したものです。彼は、数学者であり博物学者であり植物学者でもありました。

 

この実験が考え出されてから現在まで約300年が経っていますが、歴史が長いとやはり変人が登場するものです。

ビュフォンの実験をコンピュータを使わずにやった人達がいるのです。彼らは実際に紙と針を用意し、針を投げ続けました。歴史上で投げた回数が多いトップ5を紹介しましょう。

ランキング  名前  投げた回数 導いた円周率
5位  フォックス大尉 1864 1030 3.1595
4位  レイナ 1925 2520 3.1795
3位  スミス・ダベルディーン 1855 3204 3.1553
2位 ラッツァリーニ 1901 3408 3.1415929
1位  ウルフ 1800年代 5000 3.1596

二位に大差をつけて5000回実験したウルフさんが一番です。導いた円周率は、3.1596であり正確な円周率は3.1415926…なので、なかなかの結果ではなでしょうか。

怪しいのはランキング二位のラッツァリーニさんです。導いた円周率は3.1415929であり、小数点第5桁までが一致しています。

ちょっと結果が良すぎるのではないでしょうか。う~ん、怪しい。

 

なぜ円周率が求まる?

では、なぜ円周率がビュフォンの針実験で求まるのかを説明していきましょう。

多少、数式が登場しますが、一つ一つ追っていけば必ず分かるように丁寧に解説します。

 

まず、針が平行線に対して落ちるパターンを考えます。平行線に対する針の状態は、次の二つで表現できるでしょう。

  • 平行線と針の中心の距離
  • 平行線と針の角度

θは平行線と針の角度であり、これは0度から90度の間の値をとります。線に平行なのか垂直なのかということを表現します。

また、平行線と針の中心の距離は一番近い一本の平行線との距離を考えばよいので、とりうる範囲は-d/2からd/2となります。

\begin{align}
\text{平行線と針の角度:} & 0^\circ \leq \theta \leq 90^\circ \\
\text{平行線と針の中心の距離:} & -\frac{d}{2} \leq l \leq \frac{d}{2}
\end{align}

距離と角度の二つを一度に考えるのは難しいですので、まずは針の角度を固定して考えましょう。

針の角度が線に平行な場合(θ=0度)はどうでしょうか?針は細いですので、ちょうど平行線の上にぴったりと乗ったときだけ線と交わります。このときの線と針の距離は0です(下の図)。

針の角度が線に垂直な場合(θ=90度=π/2)はどうでしょうか?この場合は、上の図のように針の中心が-d/4からd/4の間にあるとき交わるでしょう。

針が線と交わることができるのは、-d/4とd/4の間の範囲でありその長さはd/2です。

ここまでを横軸に針の角度(θ)、縦軸に針が平行線と交わるためにとれる範囲(l)としてグラフに描くと、

となります。

青点がθ=0°のときで、赤点がθ=90°のときです。ただし、角度はラジアン(\(p\)を180°として表す)で表記しています。

θが0と\(\pi\)/2の間にあるときの分布はどうなっているのでしょうか。θが0と\(\pi\)以外のときについても考えます。

θが45度(\(\pi\)/4)のときを考えてみましょう。針が45度傾いたとき、平行線の方向への針の長さが、

$$\frac{d}{4} \sin\left(45^\circ\right) = \frac{d}{4} \sin\left(\frac{\pi}{4}\right) = \frac{d}{4} \frac{1}{\sqrt{2}}$$

となることを考慮すると、針の角度が45度の場合、針が平行線と交わるための範囲(\(l_{\theta=\pi/4}\))は、下の図のように線の上下に位置できることを考えると、

$$l_{\theta=\pi/4} = 2 \times \frac{d}{4} \sin\left(\frac{\pi}{4}\right) = 2 \times \frac{d}{4} \frac{1}{\sqrt{2}} = 0.35355 d$$

となります。

グラフに追加すると、

のような感じです。緑の点が針の角度が45度のときのものです。

このように、様々な角度について調べていくと、なんとなく、赤い線の上に乗りそうですね。

この線の式を導いてみましょう。

 

一般的に角度がθの時は、平行線の方向への針の長さ(m)は、下の図から

$$m = \frac{d}{4} \sin\theta$$

となります。したがって、針が平行線と交わるとき範囲(l)は、

$$l = m \times 2 = \frac{d}{4} \sin\theta \times 2 = \frac{d}{2} \sin\theta$$

です。これで\(l\)と\(\theta\)の関係が分かりましたので、グラフが完成します。予想通り上で見たグラフの赤い線のような曲線となりました。

針の状態が赤い領域に入ったときには線と交わりますが、青い領域に入ったときには線と交わりません。

 

例えば、グラフの赤い星印の位置では、針の角度は\(67.5\)度、平行線と針の距離は\(d/8\)なので、針の状態は下の図のようになります。

平行線に針が交わっていることがわかりますね。

 

一方、グラフの青い星印の位置では、針の角度は\(45\)度、平行線と針の距離は\(d/4\)なので、針の状態は下の図のようになります。

今度は平行線に針が交わっていませんね。

 

もう一度グラフを書きます。このようなグラフで針が交わるか交わらないかを表現できました。

この赤い領域の面積を求めてみましょう。少し積分の知識が必要になります。

\begin{align}
\text{赤い領域の面積} & = \int^\frac{\pi}{2}_{0} \frac{d}{2} \sin{\theta} d\theta \\
& = \frac{d}{2}
\end{align}

一方、長方形(赤い領域+青い領域)の面積は、

\begin{align}
\text{長方形の面積} & = \frac{\pi}{2} \times d \\
& = \frac{\pi d}{2}
\end{align}

ですので、

\begin{align}
\frac{\text{長方形の面積}}{\text{赤い領域の面積}} & = \frac{\frac{\pi d}{2}}{\frac{d}{2}} \\
& = \pi
\end{align}

となります。

 

したがって、針を投げ続けると、

$$\frac{\text{針を投げた回数}}{\text{針が線に触れた回数}} = \pi$$

となっていくのです。

 

平行線と針のような直線的なものから、円周率\(pi\)のような円に関係した定数が導けるのは、”針の回転角”が関係していたからなんですね。

面白いです。

 

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まとめ

  • ビュフォンの針実験はモンテカルロ法の一つである
  • ビュフォンの針実験は平行な線の上に針を何度も投げ、投げた回数と針と線が交わった回数の比をとると円周率\(\pi\)が出るという実験である
  • 直線的なもの(平行線と針)から円に関係する定数(円周率\(\pi\))が求まるのは、針の回転角が関係しているからである

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